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おれとオセロとの出会いは3年前の春。


当時付き合いはじめの彼女とラブラブだったおれは、もう彼女の言うことを何でも聞いていた。
所沢駅東口の西武鉄道本社ビル(堤さんの事件で家宅捜索に入られてたあの一部有名なビル)
のベンチみたいなところに座っていたおれたちは周りから見たらもうウザイことこの上なし。

突然彼女が何を思ったのか「オセロしたい」とつぶやく。
「オセロか・・・」。
偶然にも二日前に、勤務先の後輩から「オセロ必勝法」なるものをおれは教えられていた。

彼曰く「4隅を取れば勝てるわけでしょ?だから自分の色がC3C6F3F6を抑えれば隅が絶対
取れるんですよ。これで負けることはあり得ません」

という、今になってみれば完全にウソであるのだが、「手相の勉強してるんですけど」
とか言われるとつい立ち止まりそうになったり、Tシャツ買いにいっただけなのに
「これに合うパンツは・・・」「ジャケットが流行ってます!」「サングラスもいいですね~今年は」
などとショップの店員にあれこれ買わされ仕舞いには軽く金属アレルギーくさいのに
アクセサリーまで買わされるほど信じやすいおれは当然彼の言うことを信じきっていた。
必勝法を知っているこのおれが彼女ごときに負けるはずがない。出身大学だって偏差値は
おれの大学のほうが3くらい上だ。負けるはずがない。
いざ100円ショップにいってマグネット式のペラペラした「白黒逆転ゲーム」という
非常に打ちづらいものを購入しいざ尋常に勝負。

何と8連敗。信じられない。
あとになってわかったのだが、彼女は当時ヤフーオセロでちょこちょこ打ってたらしく、
白番の時は大量取り定石(本人は定石の意味をわかっていないが)をバシバシに駆使。
後輩の必勝法は必敗法なのか!?オセロに出身大学は関係ないのか(ないけど)!?
何度打っても勝てない・・・。「おまえよえー!うひゃひゃ」と無邪気に笑う彼女。
付き合って初めて「殴ったろか・・・」と思った瞬間。しかしおれは大人。
「運が悪かったんだな」と、今になればやはり間違った解釈で自分の悔しさを慰めた。
間違った自慰。素敵な響き。

翌日池袋のジュンク堂に「ROCKIN'ON」(洋楽誌)と「リアリティ・トランジット」(社会学の本)
と「ダイヤモンドZAI」(株の情報誌)というまったく関連性のない3冊を探しに赴く。
ふと趣味のコーナーで立ち止まった。運命の出会いをしてしまった。
将棋・囲碁の本が並ぶ中にあった『図解早わかりオセロ改訂版』(谷田邦彦さん著)!!!
「これが必勝のコツだ!!」「本書はオセロマスターの第一歩」「オセロの難しさを知れ!」
何て刺激的なコピーだ・・・。これで彼女をオセロでブチのめせるんじゃないか・・・。
そうですよ。今おれがオセロにはまったスタート地点はルサンチマンなんですよ。
ああおれって矮小な男。とにかく本を読み進めていく。段?段位があるんか?筆者はオセロ7段??
「社会的に無駄な資格の保有者」への限りない憧憬を持つおれ。
普通のサラリーマンなのに「時刻表検定1級」とか持ってる人、素敵じゃないですか。
しかしながら「根本的に努力が嫌い」なおれは「スキー1級」くらいしか持っていない。
「早わかりオセロ」をマスターすればどうやら初段レベルにはなれるらしい。
オセロなら大した苦労せずに有段者になれそうだ!(苦労してないから今でも2級なんですが)
当初目的の3冊は結局目もくれず、「早オセ」のみを買って帰りの電車で熟読した。

続く。